抽象度の高さを誇る人が陥る罠

「正しさ」や「優位性」を意味しない
「抽象度を上げろ」と聞いて、高い視点から物事を語ることが優れていると思っていませんか?
実は、これはコーチングにおける最も危険な誤解の一つです。抽象度の高さは「正しさ」や「優位性」を意味しません。本当に重要なのは、状況に応じて抽象度を自在に上げ下げできる柔軟性なのです。
抽象度とは何か?
コーチングにおける「抽象度」とは、情報をどの階層で扱っているか(認識の高さ)を表す指標です。
- 低い抽象度:具体的・個別的・感覚的
- 高い抽象度:普遍的・概念的・統合的
例えば、こんな階層があります。
「リンゴを食べた」→具体的(低い抽象度)
「果物を食べた」→少し抽象的
「食事をした」→さらに抽象的
「生命を維持した」→かなり抽象的
抽象度が上がるほど、個別の違いより共通の原理に意識が向き、より多くの出来事を一つの構造としてまとめて扱えるようになります。
コーチングにおける抽象度の本質
コーチングでは、抽象度を単なる思考のレベルではなく、「意識の存在階層」そのものとして扱います。
つまり、「どの階層から世界を見ているか」が、「どんな自己として生きているか」を決めているという考え方です。
階層の概略は以下の通りです。
- 物理空間(物体・現象)
- 生体空間(身体・感覚・行動)
- 情報空間(意味・概念・認識)
- 意識空間(自己・存在・主観)
- 超意識空間(すべての統合・非二元)
多くの人は1〜2(現実・身体)レベルでしか物事を捉えません。しかし、より高い抽象度へ上げることで、自己と世界の認識が拡張していきます。
なぜ抽象度を上げる必要があるのか?
理由1:現状の問題は、同じ抽象度では解決できない
「問題を作った意識のレベルでは、その問題は解決できない」
抽象度を上げることで、問題そのものを包含する視点から新たな選択肢が見えてきます。
例えば、職場の人間関係で悩んでいる時(低抽象度)、「自分の価値観」や「組織の目的」という上位概念から見る(高抽象度)と、「関わり方を変える」「環境を変える」といった新しい可能性が生まれます。
理由2:抽象度を上げることで「自己」が拡張する
低い抽象度の自己認識は、「私はA社の社員」「私はコーチ」といった役割や属性に閉じた自己像です。
しかし抽象度が上がると、「私は人々の成長を支援する存在」「私は愛の表現そのもの」のように、より広く・自由に自己を定義し直せます。
自己を再定義するたびに、スコトーマが外れ、世界の認識構造(情報空間)が変わるのです。
最も重要な誤解:「高い=正しい」ではない
ここが最も重要なポイントです。
高い抽象度が常に正しいわけではありません。
重要なのは、状況に応じて抽象度を上げ下げできる柔軟性です。これをコーチングではLUBと呼びます。
LUB:抽象度を往復する実践
LUBとは、「高次の抽象度と低次の具体的現実を往復しながら、自己と世界を統合していく」プロセスです。
例えば:
- 高抽象度:「人類の幸福のために貢献したい」
- 低抽象度:「今、目の前の人に笑顔で接する」
この二つが一致するとき、「理想」と「現実」のズレがなくなり、臨場感が統合されます。それがコーチングで言う情報空間の再構築の瞬間です。
高い抽象度だけに留まり、具体的な現実と乖離すれば、それは単なる観念論です。逆に、低い抽象度だけに閉じこもれば、現状の枠から出られません。
両方を自在に行き来できること──これこそが真の抽象度の扱い方なのです。
よくある誤解を解く
- 「抽象度を上げる=現実を無視する」
→本当は、現実をより大きな文脈で理解することです。 - 「抽象度を上げる=頭で考える」
→実際は、体感・直感を含めた”存在のレベルを上げる”こと。 - 「高い抽象度=優れている」
→重要なのは上げ下げできる柔軟性であり、固定された高さではありません。
実践のヒント
- 自分の存在階層を意識する
思考が”役割”や”肩書”に閉じていないかを観察してください。 - 上位の文脈から見る癖をつける
出来事に対して「これは何のためにあるのか?」と一段高い意味を問う。 - 抽象度の上げ下げを身体で感じる
瞑想・音楽・アートなどで、全体性の感覚を育みながら、日常の具体にも降りる。
まとめ:抽象度とは「何者として生きるか」の更新
| 視点 | 低い抽象度 | 高い抽象度 |
|---|---|---|
| 世界の見え方 | 個別・限定・衝突 | 全体・統合・共存 |
| 自己の定義 | 肩書・役割 | 存在・表現 |
| 問題の扱い | 対症療法的 | 構造的・創造的 |
| 重要なのは | どちらかに固定されることではなく、自在に往復できること |
抽象度を上げるとは、「何かを手に入れる」よりも、「自分という存在の枠を広げていく」ことです。
そして、その枠を広げた上で、具体的な現実へ降り、統合する。この往復運動こそが、本当の意味での情報空間の再構築なのです。
抽象度の高さを誇るのではなく、階層を自在に移動し続ける自分になる。机上で学んだら、実際に抽象度の低い階層にも移動しながら身に沁みて体感することで、慮れる存在になっていく。それが、コーチングの体現です。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
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