逃避も拡張も、どちらも変身──動機を自覚する

変身願望がない人は存在する?
誰しもが変身願望を持っているのではないか──そう感じることがあります。
けれども本当に、すべての人が変身を望んでいるのでしょうか。変身願望がない人は存在するのでしょうか。そして、変身願望と自己実現欲求はどう違うのでしょうか。
「変身願望」とは何か
まず、「変身願望」とは単に外見を変えたいという意味にとどまりません。
今の自分とは違う在り方を試してみたい。別の役割や人格を生きてみたい。環境や評価から自由になってみたい──そうした、自己の境界を一時的に超えてみたいという欲求とも捉えられます。
この意味で言えば、演劇、コスプレ、SNSでの別人格、転職、引っ越し、名前の変更なども、広義の「変身」の一部かもしれません。
変身願望が「ない」人とは
それでも「変身願望がない」と感じる人は確かに存在します。
たとえば、今の自分に深く満足している人。変わる必要を感じないか、あるいは「変わること」が不安定さをもたらすと感じる人です。
変化よりも安定や一貫性を重視する価値観の人もいます。「変わらないこと」に美徳や安心を見出すのです。
また、変身を「偽り」や「欺瞞」と感じる人もいます。「本当の自分」を大切にするあまり、変身を「嘘」と捉えてしまうのです。
そして、すでに多様な自己を内包していると感じている人。外的な変化を必要とせず、内的な流動性で満足している人も、変身願望を持たないかもしれません。
「変身願望」と「自己実現欲求」の違い
「変身願望」と「自己実現欲求」は一見似ているようで、実は方向性と動機の質が異なります。
動機の起点において、変身願望は「今の自分から逃れたい/別の自分を試したい」という動機から生まれます。一方、自己実現欲求は「今の自分を深めたい/可能性を開花させたい」という動機から生まれます。
方向性において、変身願望は横方向・外向き──つまり別の姿へと向かいます。自己実現欲求は縦方向・内向き──つまり自己の核へと向かいます。
感情のトーンにおいて、変身願望には憧れ、好奇心、時に違和感や不満が伴います。自己実現欲求には成長欲求、充足感、使命感が伴います。
時間軸において、変身願望は一時的・可逆的な変化も含みます。自己実現欲求は持続的・不可逆的な深化が多いのです。
自己との関係性において、変身願望は自己の境界を越えたいという欲求です。自己実現欲求は自己の本質を表現したいという欲求です。
重なりもある
ただし、両者は完全に分離されるものではなく、連続体のようにも捉えられます。
たとえば、変身願望が自己実現の入り口になることもあります。「憧れの人のようになりたい」という変身願望が、自分の価値観や才能を発見する契機になるのです。
逆に、自己実現の過程で変身が起こることもあります。「本来の自分を生きる」ことで、外見や振る舞いが大きく変わることもあるのです。
変身とは「逃避」か「拡張」か
では、変身とは「逃避」なのでしょうか。それとも「拡張」なのでしょうか。
それは、変身の内的動機と外的文脈によって、まったく異なる意味を帯びてきます。
逃避としての変身は、現状の苦しみや不満から離れたいという動機から生まれます。感情のトーンとしては、恐れ、疲弊、自己否定があります。方向性は何かから「離れる」であり、今の自分を否定・切り離そうとします。一時的・仮面的な変化であることが多いのです。
一方、拡張としての変身は、自己の可能性や感受性を広げたいという動機から生まれます。感情のトーンとしては、好奇心、創造性、自己肯定があります。方向性は何かへ「向かう」であり、今の自分を土台にして広げようとします。持続的・統合的な変化であることが多いのです。
実際には「逃避」と「拡張」は分かちがたい
ただし、多くの場合、変身は逃避と拡張の両方の要素を含んでいるように思えます。
たとえば、ある人が「都会を離れて田舎に移住する」という変身をしたとき、それは都会のストレスからの逃避であると同時に、自然との共鳴という拡張でもあります。
また、新しい言語や構造を創造する過程も、旧来の枠組みからの逃避でありながら、新しい共鳴軸の拡張でもあるのです。
今の自分を否定したくなったら
もしあなたが今、現状を否定したくて変身を望んでいるのなら、その気持ちを否定する必要はありません。
逃避であっても、拡張であっても、その両方であっても、変身への欲求は自然なものです。大切なのは、その動機を自覚することです。
今の自分から逃れたいのか。それとも、新しい自分を試したいのか。あるいはその両方なのか。
その問いに正直に向き合うことで、変身は単なる逃避ではなく、自己の拡張へと変容していく可能性があります。
変わることも、変わらないことも、どちらも一つの選択です。けれども、変身願望を感じているなら、それは何かが動き始めているサインかもしれません。
その動きを恐れず、ただ観察してみてください。そこにどんな可能性が開かれているのかを。
変身は、あなたがあなた自身になるための、一つの道なのですから。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
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