苦しみは問題ではなくエネルギーである──解決ではなく余白を見つける

理想の未来は苦しさの開放か?
「まさに今苦しい」という人が照らされるのは、多くの場合「こうすればあなたも望む未来が手に入るのです」という導きです。実際、私自身もその眩しさに惹かれてコーチングの世界に入りました。
けれども今、その眩しさは一見魅力的でも、実は見当はずれなのではないかと感じています。
「理想の未来で今の苦しみを埋める」ことの罠
多くの人が「今の苦しみ」を「未来の成功」や「理想の到達」で帳消しにしようとします。しかしこの構造には、深刻な問題が潜んでいます。
それは「今の苦しさの解放を理想の到達で埋め合わせようとする」ことで、結局「苦しみをなんとかしようとする苦しさ」を抱え続けることになるということです。つまり「今の連続」として、人間らしい苦しさを味わい続ける構造が強化されてしまうのです。
苦しみを解決すべき問題として扱い、それを未来の理想で上書きしようとする。このアプローチでは、苦しみそのものは消えません。形を変えて、延々と続いていきます。
苦しみを「取り出す」という発想
では、どうすればいいのでしょうか。
私が提案したいのは、苦しみを未来で埋めるのではなく、今ここから「取り出す」という発想です。
まず問いかけてみてください。「なぜ苦しいと感じているのか?」と。この問いは、苦しみを対象化する第一歩です。苦しみに飲み込まれるのではなく、それを眺める視点を持つということです。
次に、「その苦しさは思い込みなのではないか?」と問いかけてみる。この視点は、苦しみの構造を見抜く力を育てます。苦しみは、多くの場合「こうでなければならない」という固定観念から生まれています。
そして、その固定観念に気づき、それを手放してみる。すると、直面している苦しさとの間に距離が生まれます。苦しみの密室に風穴が開くような感覚です。
苦しさでいっぱいだった器の中に、空きができる。そのスペースに、好奇心やワクワクが入り込んでくる。苦しい今の連続ではない状態が、そのまま好奇心の連続へと繋がっていくのです。
「導き」が有効に働く条件
とはいえ、「望む未来を提示する導き」がまったく無意味だと言いたいわけではありません。実際、この導きには重要な機能があります。
たとえば、苦しみの中にいるとき、人は出口や方向性を見失いがちです。「望む未来」というビジョンは、暗闇の中に差し込む光のように、希望の感覚を取り戻すきっかけになります。それは「今の苦しみが永遠ではない」という時間軸の転換を促す力を持っています。
また、「こうすれば…」という導きは、抽象的な苦しみを具体的な行動に変換する手助けになります。苦しみの中で思考が停止している人にとって、行動の選択肢が提示されることは、自分を取り戻す第一歩になることもあるのです。
さらに、「あなたにもできる」というメッセージは、自己否定に陥っている人にとって、自己効力感を回復させる可能性があります。苦しみの中で「自分には無理だ」と感じている人にとって、未来の可能性を示すことは、自分を信じる力の再点火になることもあります。
苦しみの質と導きの質の掛け算
重要なのは、「理想の未来を提示する導き」が有効に働くためには、条件があるということです。
苦しみの質によって、必要な導きは変わります。苦しみが「混乱」である場合、構造化された未来のビジョンは安心感をもたらします。苦しみが「自己否定」に根ざしている場合、未来の自分との再接続が癒しになります。苦しみが「閉塞」である場合、未来の可能性が風穴を開ける力を持ちます。
そして導きの質も重要です。提示される未来が「現実逃避」ではなく、「今の延長線上にある可能性を超える無限の可能性」として語られること。「こうすれば…」という導きが、上からの指示ではなく、「一緒に見出していこう」という共鳴的な姿勢で語られること。
さらに、関係性の質も欠かせません。導き手が「共に歩む存在」であるとき、苦しみの中にいる人は安心してその光に向かうことができます。
つまり、苦しみの質 × 導きの質 × 関係性の質。この三つの掛け算が整っているとき、導きは本当の意味で人を照らすことができるのです。
「導く」のではなく「共に見つめる」
私が今実践しているのは、「導く」のではなく「共に見つめる」コーチングです。
理想を語るのではなく、今に触れる。苦しみを排除するのではなく、苦しみの中にある余白を見つける。そして、その余白から自然に湧き上がってくるものを、一緒に眺める。
苦しみは、解決すべき問題ではありません。今ここにあるエネルギーです。そのエネルギーをどう扱うかで、そこにある閉塞が開かれ、別の質の流れが始まります。
あなたが今苦しいのなら、その苦しさを未来で埋めようとするのではなく、まずはその苦しさを器から取り出してみてください。そのとき、あなたの中に新しい空間が生まれます。
そこに入ってくるのは、誰かが用意した理想ではなく、あなた自身の好奇心とワクワクです。それこそが、本当の意味での「苦しみからの解放」なのではないでしょうか。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
↓ 過去ブログ ↓


