ワクワクゴールでも続かない理由 – 根底の闘いエネルギーの罠

コーチングの一般的な定義への疑問
コーチング理論では、変容のプロセスを「現状に違和感を感じ、その違和感の中に居続けることが『おかしい!』と感じて、現状に留まらずに現状の外に移行し続ること」として捉えることが一般的です。
この定義は確かに有効で、多くの人にとって変容への強力な動機となります。しかし、この違和感駆動型のアプローチだけが変容の唯一の道なのでしょうか?
もう一つの変容の道:好奇心駆動型
実際の人生を観察してみると、もう一つの変容パターンが存在することに気づきます。それは、現状に幸せを感じ感謝しながらも、「あっ、やってみようかな」という純粋な好奇心によって新しい領域に足を踏み入れる道です。
この好奇心駆動型の変容では、現状を否定する必要がありません。むしろ現状への感謝をベースにしながら、自然に湧き上がる興味や関心に従って行動することで、予想もできない現状の外へと移行していきます。
二つのアプローチの心理学的基盤
違和感駆動型の特徴と限界
違和感駆動型の変容は、心理学的には「回避動機」に基づいています。現状の不快感や不満足感から逃れたいという欲求が原動力となり、変化への強いエネルギーを生み出します。
このアプローチでは、現状の外のワクワクするゴールを設定することで更に推進力が増すとされています。しかし、根底にある違和感が「今の状態から理想的な状態になるために、意地でも実現してやる!」という闘いに根差している場合、深刻な問題が生じます。
ワクワクというポジティブ要素で「イヤな現状を実感している」というネガティブ要素を抑え込もうとしても、この闘いに勝ち続けることができるのは、ごく一部の言語化やマーケティングが上手な人に限られます。その他の多くの人は、どこかで諦めるか、どこかでふと現状の幸せに気づき、自然と好奇心駆動へと移行していくのです。
好奇心駆動型の特徴
一方、好奇心駆動型は「接近動機」に基づいています。新しい体験や学習への内在的な興味が原動力となり、探索的な行動を促進します。
このアプローチの利点は、持続可能性と創造性にあります。楽しみながら取り組めるため、長期的な成長が可能で、予期しない発見や革新を生み出しやすくなります。
神経科学から見た動機システム
脳科学の観点から見ると、この二つのアプローチは異なる神経システムを活性化します。
違和感駆動型は、主に扁桃体や前帯状皮質などの「脅威検出・回避システム」を活性化します。このシステムは高いパフォーマンスを短期間で実現できますが、慢性的な活性化はストレスホルモンの分泌を増加させ、創造性や柔軟性を阻害する可能性があります。
好奇心駆動型は、ドーパミン系や前頭前野の「報酬・探索システム」を活性化します。このシステムは学習効率を高め、記憶の定着を促進し、長期的な幸福感をもたらします。
実生活における両アプローチの観察
違和感駆動型の事例
転職を例に取ると、違和感駆動型では「今の職場環境に我慢できない」「このままでは将来が不安」といった不満や恐怖が動機となります。この場合、転職活動は現状からの脱出という色彩を帯び、しばしば切迫感を伴います。
好奇心駆動型の事例
同じ転職でも、好奇心駆動型では「新しい分野に興味が湧いた」「あの会社の取り組みが面白そう」といった探究心が動機となります。現職への不満がなくても、純粋な興味によって行動が促されます。
エネルギー効率と持続可能性の観点
長期的な視点で見ると、二つのアプローチには明確な違いがあります。
違和感駆動型は、常に「問題」を認識し続ける必要があるため、精神的なエネルギー消費が大きくなります。特に闘いのエネルギーに依存している場合、そのエネルギーを維持し続けることは多くの人にとって困難です。また、問題が解決されると動機が失われるリスクもあります。
現実として、違和感駆動の闘いモードを維持できるのは、自分の状況を上手く言語化し、周囲を巻き込むマーケティング能力に長けた一部の人に限られます。その他の多くの人は、途中で疲弊して諦めるか、あるいはふとした瞬間に現状の中にある幸せや感謝できる要素に気づき、自然と好奇心駆動型へとシフトしていくのです。
好奇心駆動型は、内在的な興味によって持続されるため、外的な問題に依存せず、より安定した成長を可能にします。闘う必要がないため、エネルギー効率も良く、長期的な取り組みに適しています。
時代的背景と価値観の変化
現代社会では、物質的な不足から精神的な充足への価値観の転換が進んでいます。この文脈では、「足りないものを埋める」違和感駆動型よりも、「興味深いものを探求する」好奇心駆動型の方が時代精神に適合している面があります。
特にミレニアル世代以降では、仕事に意味や楽しさを求める傾向が強く、好奇心駆動型のアプローチがより自然に受け入れられる土壌があります。
統合的視点の重要性
重要なのは、どちらかのアプローチを絶対視することなく、両方の素晴らしい価値を認識することです。
違和感駆動型は、緊急性のある問題解決や、現状打破が必要な局面において威力を発揮します。一方、好奇心駆動型は、継続的な成長や創造的な活動において優れた効果を示します。
個人差と状況適応
人によって、また状況によって、どちらのアプローチがより適しているかは異なります。
内向的で熟考型の人は好奇心駆動型を、外向的で行動型の人は違和感駆動型を好む傾向がありますが、デジタルネイティブ以前の世代になるにつれて、時代背景として「理想の為に闘って勝ち取る」という社会的刷り込みが強い人が多い傾向があり、内向的で熟考型の人でも、「違和感駆動型で理想を掴み取る」ということを受け入れてしまう傾向があり得ます。
また、人生のステージや置かれた環境によっても、適切なアプローチは変わります。
実践的な統合方法
両アプローチを統合的に活用するためには、以下のような視点が有効です:
- 現状の客観的評価:今の状況を感情的にではなく、事実として把握する
- 動機の源泉の認識:自分が何によって動かされているかを意識する
- 柔軟な切り替え:状況に応じてアプローチを使い分ける能力を養う
- 長期的視点の保持:短期的な成果だけでなく、持続可能性も考慮する
俯瞰的視点の価値
コーチングにおいても、クライアントの状況や性格に応じて、どちらのアプローチがより適しているかを見極める能力が求められます。一つの理論に固執することなく、俯瞰的な視点から最適な支援方法を選択することが重要です。
結論:多様性の受容
変容への道は一つではありません。違和感駆動型も好奇心駆動型も、それぞれに独自の価値と効果があります。
大切なのは、自分にとってどちらがより自然で持続可能かを見極めることです。そして、必要に応じて両方のアプローチを使い分けられる柔軟性を持つことです。
人生は複雑で多面的なものです。単一のアプローチに固執することなく、様々な可能性を体感しながら、自分なりの変容の道を歩んでいくことが、真の成長につながるのではないでしょうか。
どちらに偏ることもなく、両方の価値を認めながら、自分の人生という実験場で様々なアプローチを試してみる。そこにこそ、豊かな人生の可能性が開かれているのです。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
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