コーチングと経済基盤 – 見えない前提条件について

ふと気になったこと

私の重要性から、様々な系のコーチングサービスや発信をよく目にする。「自分らしい生き方を見つけよう」「思い切った選択をして人生を変えよう」といったメッセージに溢れている。確かに魅力的だし、実際に人生が好転した人たちの体験談も数多く聞く。

でも、ふと疑問が浮かんだ。これらのコーチングサービスって、実は見えない前提条件があるのではないだろうか?

この自問自答は、抽象度を下げたり上げたりで繰り返しているので、「こうである」という断定的な話ではないことだけ了承いただいたうえで、お読みいただきたい。


経済的格差とリスク許容度の現実

経済的基盤の有無は人の意思決定に決定的な影響を与えます。十分な貯蓄や家族からの経済的支援がある人は、起業、転職、留学などの大きな決断を下す際のダウンサイドリスクが限定的です。目に見える成果を感じなくても生活が破綻しない「セーフティネット」があることで、より大胆な選択が可能になります。一方、経済的余裕がない人にとって、同じ選択は文字通り生活を賭けた決断となり、リスクの重みが全く異なります。

非常に重いのです。「そんなことは、ゴールを設定すれば方法は見えてくるから大丈夫」というのは、その通りなのですが、「過去は関係ない」とわかっていても、経済的基盤のない人にしてみれば、非常に重い状態からの踏ん切りになります。


コーチング料金の現実的な負担

日本のコーチングの相場は1セッション(60-90分)で3-10万円とか、月額では10-30万円程度がゴロゴロしてます。年収300-400万円の人にとって、月10万円のコーチング費用は手取り収入の40-50%に相当し、現実的に支払い不可能です。一方、年収1000万円以上の人や、企業が費用負担する管理職にとっては、自己投資として許容可能な範囲に収まります。


「成功者バイアス」の問題

コーチング業界でよく語られる成功事例の多くは、既に一定の成功を収めている人がさらに飛躍したケースです。元々経済的基盤や、出身地、家庭環境などのリソースを持っていた人が、コーチングを通じてそれを最大化した事例が中心で、経済的基盤や、出身地、家庭環境など、ゼロからのスタートで成功した事例は相対的に少ないのが実情です。これは、コーチングの効果そのものよりも、受講者の初期条件の影響が大きいことを示唆しています。


階層固定化を助長するリスク

現在のコーチング業界の構造は、意図せずして社会的階層の固定化に寄与している可能性があります。裕福な層は質の高いコーチングを受けてさらに成長し、経済的に困窮している層はそもそもアクセスしにくいという状況は、機会の不平等を拡大させます。「自己投資」という言葉の裏で、投資する原資の有無という根本的な格差が見過ごされがちです。


リスクの非対称性

裕福な人にとっての「思い切った選択」と、そうでない人にとってのそれは、質的に全く異なります。前者にとっては「チャレンジ」でも、後者にとっては「生存を賭けた賭博」になりえます。例えば、起業に失敗した場合、実家が裕福な人は再起のチャンスがありますが、借金を抱えた人は長期間その返済に追われることになります。この非対称性を考慮せずに同じアドバイスを適用することは危険です。


構造的な解決策の必要性

この問題に対しては、個人の努力や意識改革だけでなく、構造的なアプローチが考えられます。スライディングスケール(収入に応じた料金設定)の導入、グループコーチングによる費用分散、企業や行政との連携による補助制度、オンラインやAIを活用した低価格サービスの開発などが考えられます。また、コーチング的アプローチを公教育や職業訓練に組み込むことで、経済状況に関わらずアクセスできる仕組みも面白いかもしれません。


プロボノ活動の限界と可能性

一部のコーチはプロボノ(無償奉仕)活動を行っていますが、これも持続可能性の問題があります。コーチ自身も生活があるため、プロボノの割合には限界があります。しかし、経験の浅いコーチが実践を積む機会として、低所得者向けの低価格サービスを提供する仕組みは、双方にメリットがある可能性があります。


本質的な問い

誰が創始者とか、誰がどうなってこうなったとか、ルーツの話は置いといて、2010年代あたりから、SNSやブログなどで一気にコーチングが一般的にも知れ渡るようになったことによって発生した疑問でしかないのかもしれません。

最終的に問われるべきは、「コーチングは誰のためのものか」という本質的な問いです。現状では、経済的・社会的に既に恵まれた層のためのサービスになっている側面は否定できません。これは、コーチング業界が掲げる「すべての人の可能性を引き出す」という理念と矛盾する部分があります。

とはいえ、私の場合は、「生活の破綻になろうが、現状を変えたいんだ!」という覚悟で、経済的基盤もない状態から、ずっとなんとか支払い続けているし、結局いろんなことがありながらも「なんとかなる」というのは腑に落ちているのですが、ほとんどの経済的基盤が無い人にとってはそこまで見通せないだろうし、実際に大変な目に遭うことも厭わない覚悟が必要であるほどのことではあります。

大切なのは、こうした前提条件を無視して「努力不足」や「覚悟不足」と決めつけることなく、それぞれの置かれた状況を理解したうえで、包摂する抽象度高低の行き来が必要です。

この指摘は、コーチング業界が直視してもしなくてもいいのですが、重要な課題を浮き彫りにしていると思います。真に包摂的なコーチングの在り方を模索することは、業界の持続的発展にとっても不可欠だと考えます。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

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